AI Governance Guide

CAIO(最高AI責任者)とは

設置状況と役割、専任か兼務かの判断

AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の実務マニュアルは、CAIO(Chief AI Officer、最高AI責任者)を「AIに関する戦略、ガバナンス、リスクマネジメント、人材育成、調達を統合的に率いる最高責任者。CEO直下等のレイヤーで、事業横断の意思決定・調整を担う」と定義しています。

CAIOという役職を置くかどうかより、その機能を誰が担い、推進と監督をどう回すかが問われます。 国内では、売上高500億円以上の企業・組織でも、正式なCAIO職を置いているのは22%です(02)。

本稿では、CAIOの定義、国内企業の設置状況、担う役割、AX(AIトランスフォーメーション。AIによる業務と事業の変革)を進める体制、会議体と判断の回し方、AISIの体制案と案件数での読み替え、専任か兼務かの判断の順に述べます。

最終更新:2026年9月25日

01

Definition

CAIOとは

日本のAIセーフティ・インスティテュート(AISI)は、2026年3月17日に「Chief AI Officerガイドブック」と「Chief AI Officer設置・AIガバナンス実務マニュアル」を公表しました。実務マニュアルは、CAIOを「AIに関する戦略、ガバナンス、リスクマネジメント、人材育成、調達を統合的に率いる最高責任者。CEO直下等のレイヤーで、事業横断の意思決定・調整を担う」と定義しています。

CIO(情報システム)やCDO(デジタル・データ)の役割と違うのは、対象がAIの活用全体にまたがる点です。業務の変革、事業の創出、データ、セキュリティ、法務・倫理、人材が1つの判断に同時に関わるため、それらを横断して優先順位を決める役割が要ります。

役職名は必須ではありません。このガイドでは、役職名にかかわらず、この機能を「AI統括責任者(CAIO機能)」と呼びます。既存の責任者が兼務してもかまいません。

02

Survey

国内企業の設置状況

PwC Japanグループの「CAIO実態調査2025」(2025年11月21日公表。売上高500億円以上の国内企業・組織に属し、AI導入に関わる課長以上の1,024名へのWeb調査)では、CAIOの設置状況は次のとおりでした。

設置状況

割合

正式なCAIO職を設置している

割合

22%

CAIOという名称ではないが、同等の役割を持つ責任者を設置している

割合

38%

CAIOを設置していない

割合

40%

同じ調査では、CAIOまたは同等の責任者を置く企業は、置いていない企業に比べ、業務・技術・管理のいずれの領域でもAI活用の推進度が平均20ポイント以上高いとされています。また、ガバナンス・リスク管理を専門性に持つCAIOがいる企業では、直近3年のAI活用の進展で、前進した割合が高く、後退した割合が低いとされています。

これらは回答者の認識にもとづく比較で、CAIOを置いたことが成果を生んだという因果までは示していません。言えるのは、AIの活用が進んでいる会社ほど全社を見る責任者を置いており、ガバナンス・リスク管理を専門性に持つCAIOがいることが、活用が後退した割合の低さと結びついている、という点までです。

出典:PwC Japanグループ『CAIO実態調査2025―AI経営の成否を分けるリーダーの条件』(2025年11月21日公表)(調査期間2025年6月5日〜9日、Web調査、売上高500億円以上の国内企業・組織の課長以上でAI導入に関与する1,024名)

03

Roles

CAIOが担う役割

AISIの実務マニュアルは、CAIOの役割と責務を、次の領域に分けて示しています。「中身」の列は、原典をもとにした本稿の要約です。

領域

中身

経営・戦略

中身

AIの活用を経営戦略と結びつけ、投資の優先順位を決める

ガバナンス・AI原則の実装

中身

方針・規程・承認の仕組みを整え、運用させる

リスクマネジメント

中身

リスクを評価し、区分に応じて管理する

セキュリティ・プライバシー

中身

AIに固有の脅威と、個人データの扱いに備える

データガバナンス・品質保証

中身

学習や入力に使うデータの品質と出どころを管理する

調達・ベンダー管理

中身

外部のAIサービスやモデルの選定と、契約の条件を確かめる

イノベーション・PoC管理

中身

検証の進め方と、次に進めるかの判断を管理する

教育・人材

中身

利用者と専門人材を育てる

このほか、外部の適合性評価・認証と、権利や安全に影響するAIへの追加の内部統制も挙げています。マニュアルは、これらをCAIOが一人ですべて高度に備えることを前提とせず、CAIOの強みを核に、直轄のチームとの役割分担で補うことを想定しています。

AnchorXは、CAIOの仕事を「推進」と「監督」の2つに束ねて考えることをすすめます。推進は、どの業務・事業にAIを使い、どこに投資するかを決めること。監督は、使ってよい範囲を決め、承認し、問題があれば止めることです。2つを同じ責任者が総括するから、リスクの低い活用を早く通し、高い活用に手間を集中させる判断ができます。 ただし、止める機能までを1人に頼らず、推進側から独立した担当を置きます(AIガバナンスの3ライン・モデル)。

04

Structure

AXを進める体制

AX(AIトランスフォーメーション)は、AIを使って業務と事業の進め方を変え、成果につなげることを指します。個別の案件をPoCで確かめるだけでは、AXにはなりません。成果が出た使い方を他の部門に広げ、案件の選び方と投資の判断を会社として続けられる状態にして、はじめて経営の機能になります。

そのために体制に要るのは、次の4つの機能です。

機能

やること

担い手の例

統括(AI統括責任者)

やること

全社のAI戦略、投資の優先順位、許容リスクを決め、推進と監督を総括する

担い手の例

CAIO、または兼務するCxO

事務局(AI事務局)

やること

案件の台帳とAIインベントリを持ち、判断の場を回し、成果が出た使い方を標準にして広げる

担い手の例

専任または兼務の1〜数名

事業部門(第1線)

やること

対象の業務を選び、案件を運営し、効果と判断の記録を残す

担い手の例

事業責任者、案件の責任者

専門部門と、独立して止める担当(第2線)

やること

法務・情報セキュリティ・個人情報の審査と、停止の提起

担い手の例

法務、情報セキュリティ、情報管理の責任者

第3線(内部監査)は、この4つとは別に置き、仕組みが機能しているかを経営管理者から独立して確かめます。既存の内部監査の計画にAIの項目を足す形で始められます(第3線(内部監査)は何を確かめるか)。

PwC Japanグループの調査も、成果を出したい領域に合ったリーダーを置くこと、目的に応じた連携の体制をつくること、CAIOが業務・技術・管理を網羅的に見ることを示唆として挙げ、AIガバナンスはブレーキではなくガードレールとして働く、としています。

AnchorXは、事務局を「管理の窓口」だけにしないことをすすめます。台帳で案件を見ている事務局は、どの使い方が成果を出したかをいちばん早く知る立場にあります。成果が出た使い方を標準にして他の部門に広げる役割を事務局に持たせると、ガバナンスの仕組みがそのまま浸透・定着の仕組みになります。 広げ方と、各部門の推進役の置き方は生成AI活用の推進体制をどうつくるかで解説しています。

Download

生成AIの社内ガイドライン ひな形/AIガバナンス 運用シート

ひな形の11章「体制と役割分担」に、AI統括責任者を含む役割分担と、推進側から独立して止める担当の置き方を、自社の部署名を入れて使える形でまとめています。Excelの運用シートとあわせて、無料で配布しています。

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05

Operation

運用:会議体と判断の回し方

体制は、会議体と判断の場が回ってはじめて機能します。AI専用の会議を新しく増やす必要はありません。既存の会議に、次の3つを組み込みます。

場

頻度

決めること

月次のAI案件レビュー

頻度

月1回

決めること

新しい案件の登録とリスク区分、進行中の案件を次に進めるか、停止の提起の判定、インシデントの報告

四半期の経営判断

頻度

四半期に1回

決めること

案件ごとの費用と効果、投資の継続・拡大・中止、方針と許容リスクの見直し

案件の判断の場

頻度

案件の節目ごと

決めること

PoCの結果を受けて、Go/条件付きGo/保留・再設計/No-Go のいずれかを判定する

AISIの実務マニュアルも、大企業の体制案では、全社のAIステアリングコミッティを少なくとも月1回開き、新しいユースケースの審査、主要なKPIのレビュー、インシデント・苦情の報告と是正計画を固定の議題とすることが実務上望ましいとしています。

指標は、利用率だけで見ないようにします。利用率は、使われているかは示しても、成果が出ているかは示しません。案件ごとの効果と、成果が出た使い方が他の部門に広がっているかを合わせて見ます。指標の選び方は生成AIの利用率をどう読むかで、個別の案件を次に進めるかの判断はAI PoCガイドで扱っています。

06

Reference Models

AISIの体制案と、案件数での読み替え

AISIの実務マニュアルは、会社の規模に応じた3つの体制案を示しています。

体制案

想定

CAIOの置き方

事務局と会議体

大企業

想定

―

CAIOの置き方

CEOの直下に、独立したC-suiteとしてCAIOを置く

事務局と会議体

CAIOの直下にAIガバナンス室(AI推進チーム)。全社のAIステアリングコミッティを月1回以上

中規模企業

想定

従業員数百名程度まで、AIの活用案件が年間数十件未満

CAIOの置き方

CEOの直下に置く。専任が難しければCTOまたは事業企画の責任者が兼務

事務局と会議体

1〜3名のバーチャルな体制。月次のレビューと四半期のCEOの決裁。停止の権限を持つセーフティ担当を独立に置く

スタートアップ

想定

従業員数十名程度まで

CAIOの置き方

CEOまたはCTOが兼務

事務局と会議体

定期のプロダクト会議にAIガバナンスの固定の議題。プロダクト以外のメンバーにリリースの停止権限

スタートアップの体制案から中規模企業の体制案へ移る目安として、高リスクのAIの本番運用を始める場合、大量の個人データを恒常的に扱う場合、AI関連の売上が一定の比率(例:全売上の20%以上)を超える場合を挙げています。

売上数百億〜2,000億円規模の中堅企業は、従業員が千名を超えることも多く、マニュアルの「中規模企業」の想定より大きい場合があります。マニュアルは、中規模企業の想定に、従業員数とあわせてAIの活用案件の数(年間数十件未満)を挙げ、体制案を移る目安にも高リスクのAIの本番運用を挙げています。従業員数で当てはめるのではなく、同時に動くAIの案件の数と、高リスクの案件が本番にあるかで置き方を決めます。 体制の類型ごとの置き方はAIガバナンスとはで解説しています。

07

Full-time or Shared

専任か兼務かの判断

CAIOを専任で置くか、既存の責任者の兼務にするかは、次の3点で判断します。

同時に動く案件の数:部門をまたいで案件が増え、月次のレビューで扱いきれなくなったら、専任の責任者と事務局を検討します

高リスクの案件:顧客への回答、与信・採用などの判断、自動で操作するAIエージェントのように、高リスクの案件が本番に入ったら、承認と監視に割く時間が増えます

投資の大きさ:AIへの投資が、四半期ごとに経営が比べて判断する規模になったら、費用と効果を一元で見る責任者が要ります

兼務で始める場合も、統括する責任者を1人に決め、推進側から独立して止められる担当と、1〜3名の事務局を置きます。役職名は後から付けてかまいません。

外部の支援者は、立ち上げの時期に足りない知見と工数を補う位置づけで、常設の役割にはしません。方針・承認・停止の責任と最終的な承認は社内に置きます(AIガバナンスとは)。

08

Summary

まとめ

CAIOは、AIに関する戦略、ガバナンス、リスクマネジメント、人材育成、調達を統合的に率いる最高責任者です(AISIの定義)。役職名は必須ではなく、その機能を誰が担うかが要点です

PwC Japanグループの調査(売上高500億円以上の国内企業・組織、1,024名)では、正式なCAIOを置く企業は22%、同等の責任者を含めると60%でした

AISIの実務マニュアルは、CAIOがすべてを一人で担うのではなく、直轄のチームとの役割分担で補うことを想定しています

AXを進めるには、統括・事務局・事業部門・独立して止める担当の4つの機能を置き、既存の会議に月次のレビューと四半期の経営判断を組み込みます

置き方は従業員数ではなく、案件の数、高リスクの案件、投資の大きさで決めます。兼務で始めても、独立して止める担当は置きます

会社として決める5つのことはAIガバナンスとはで、線ごとの役割と止め方はAIガバナンスの3ライン・モデルで解説しています。

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生成AIの社内ガイドライン ひな形/AIガバナンス 運用シート

社内ガイドラインのひな形(Word)と、方針・許容リスク/AIインベントリ/リスク判定/利用ルールを記録する運用シート(Excel)を無料で配布しています。自社に合わせて書き換えて使えます。

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