AI Governance Guide

シャドーAIとは

禁止ではなく、把握から始める

シャドーAIとは、会社が把握しないまま業務で使われているAIを指します。個人のアカウントでの利用だけでなく、既存のSaaSに追加されたAI機能、部門が個別に契約したAIツール、把握されていない試作も含みます。

シャドーAIへの対応は、禁止ではなく、把握から始めます。 会社が把握していないAIの利用は、個人の心がけの問題ではなく、会社の環境・申請の手続き・使ってよい範囲の示し方から生まれる、仕組みの問題です。

一律に禁止しても、業務で使う理由が残っていれば、利用はなくならず見えなくなります。見えないものは、承認することも、止めることもできません。先に社内で使われているAIを一覧にし、リスクに応じて扱いを分けることで、活用を止めずに管理できます。

本稿では、シャドーAIの範囲、調査に見る発生の状況、生まれる構造、禁止だけでは解決しない理由、AIインベントリによる棚卸し、見つけた後の扱い、情報漏洩を防ぐ入力の区分の順に述べます。

最終更新:2026年9月25日

01

Definition

シャドーAIの定義

シャドーAIは、個人のアカウントでの利用を指すと受け取られがちです。実際の範囲はそれより広く、次の4つを含みます。

種類

把握から漏れやすい理由

① 無償版・個人アカウントの利用

把握から漏れやすい理由

申請なしに、手元の端末からすぐ使える

② 既存のSaaSに追加されたAI機能

把握から漏れやすい理由

契約中のサービスの更新で機能が加わるため、新しい導入の手続きを通らない

③ 部門が個別に契約したAIツール

把握から漏れやすい理由

部門の予算で契約され、全社の一覧に載らない

④ 把握されていないPoCや試作

把握から漏れやすい理由

検証として始めた利用が、そのまま業務に残る

②〜④は、利用している人に隠す意図がなくても起きます。そのため、把握の単位は人ではなく、製品・サービスに置きます。

シャドーITとの違い

会社が把握していないIT機器やクラウドサービスの利用は、以前からシャドーITと呼ばれてきました。シャドーAIもその一部ですが、AIには2つの違いがあります。

入力した情報が外部で扱われる:入力した文章やファイルは提供元の環境で処理され、契約や設定によっては保存されたり、学習に使われたりします

出力が業務の判断に入る:生成された文章や要約が、顧客への回答、社内の資料、判断の材料として使われます。誤りや偏りが、確認されないまま業務に入るおそれがあります

このため、どのサービスを使っているかに加えて、どの情報を入れ、出力を何に使っているかまで把握します。

02

Data

シャドーAIの発生状況

1つ目は、働く人に聞いた調査です。株式会社エルテスの調査(2026年1月19日公表、29〜69歳の会社員・公務員 有効回答300名)では、業務で生成AIを使っていると答えた人は34.3%でした。そのうち20人が、会社の許可していないツールを使っていると答えています。生成AIの利用者の少なくとも約5人に1人にあたります。ただし、利用者は約100人の小さな標本のため、割合は幅をもって読む必要があります。

2つ目は、経営者や情報システム部門に聞いた調査です。株式会社ISOプロの調査(2026年8月5日公表、企業の経営者・役員・情報システム部門従事者 1,023人)では、シャドーAIについての回答は次のとおりでした。

回答

割合

利用状況を把握・管理できており、大きな問題はない

割合

25.3%

利用状況は把握しているが、一部シャドーAIが発生している

割合

44.5%

利用状況を十分把握できておらず、シャドーAIが発生している可能性がある

割合

20.6%

わからない

割合

9.6%

いずれも、それぞれの調査の単純集計です。44.5%と20.6%は別の選択肢で、「発生している」と「発生している可能性がある」は意味が違うため、足し合わせて読みません。

このガイドの出発点に直結するのは、20.6%の「利用状況を十分把握できておらず」という回答です。発生しているかどうかより前に、把握する仕組みがないことが課題になっています。また、44.5%の回答は、利用を把握していることと、シャドーAIがなくなることが別であることを示しています。

出典:株式会社エルテス『【実態調査】生成AI利用者の約5人に1人が「シャドーAI」リスク』(2026年1月19日公表)(調査日2026年1月13日、インターネット調査、29〜69歳の会社員・公務員 有効回答300名)/株式会社ISOプロ『次世代AIとガバナンス実態調査』(2026年8月5日公表)(調査期間2026年7月22〜23日、PRIZMAによるインターネット調査、企業の経営者・役員・情報システム部門従事者 1,023人)

03

Causes

シャドーAIが生まれる構造

シャドーAIは、業務を早く進めたいという、それ自体は正当な理由から生まれます。ISOプロの同じ調査で、従業員が会社に無断で個人のAIを使う要因として挙がった回答(複数回答)の上位は、「業務効率を上げたい」40.1%、「最新のAIをすぐ使いたい」32.1%、「社内ルール・ガイドラインが不十分」28.9%でした。

この理由が、会社の仕組みと合わないところで、シャドーAIが生まれます。構造は次の4つに分けられます。

構造

起きること

① 会社の環境が用意されていない、または使いにくい

起きること

手元の無償版を使う理由が生まれる

② 申請が重く、待てない

起きること

承認を待つ間に、業務は先に進む

③ 使ってよい範囲が分からない

起きること

何を申請すればよいかも分からず、相談されないまま使われる

④ 既存のSaaSが自動でAI機能を追加する

起きること

利用者が新しいAIを使っている自覚がないまま、利用が始まる

①〜③は会社の環境と手続き、④はサービスの提供の形から生まれます。どれも、使う人を注意するだけでは変わりません。対策も、環境・手続き・範囲の示し方を変える方向で考えます。

04

Not a Ban

禁止だけでは解決しない理由

一律の禁止は、分かりやすい対応です。しかし、03で見た4つの構造が残ったまま禁止だけを置くと、利用はなくならず、見えなくなります。見えなくなると、次の2つが起きます。

相談が来なくなる:使っていることを言いにくくなるため、入力してよいか迷う情報や、誤りを含む出力が表に出ません

移行先を用意できない:どのAIがどの業務で使われているかが分からないため、会社の環境で代わりを用意できません

AnchorXは、禁止ではなく、次の3つをそろえることをすすめます。

会社が用意した環境への移行を促す

使ってよい範囲と、判断に迷ったときの相談先を示す

相談や申告をしても不利益を受けないことを、社内ガイドラインに明記する

浸透・定着ガイドのよくある質問でも、同じ立場で答えています。

なお、特定の利用を止めることが必要な場面はあります。ただし、それは棚卸しで見つけた利用をリスク区分で判定した結果として決めることで、一律の禁止とは別のものです(06)。

05

Inventory

AIインベントリによる棚卸し

把握の道具が、AIインベントリ(製品・サービス単位でAIを把握する一覧)です。AIを使う取り組みを案件ごとに管理する案件の台帳とは、別に持ちます。同じチャットAIを複数の部門が別の目的で使う場合、AIインベントリでは1行、案件の台帳では目的ごとに1件になります。

記録する項目

項目

記入すること

製品・サービス名

記入すること

利用しているAIの製品・サービス。既存のSaaSに追加されたAI機能の登録単位は、下の「既存のSaaSのAI機能の管理の範囲」に従う

提供元

記入すること

提供している事業者

利用部門

記入すること

使っている部門

契約形態

記入すること

法人契約/部門の個別契約/既存契約のオプション/無償版・個人アカウント など

利用者数

記入すること

おおよその人数

扱うデータ区分

記入すること

入力する情報の区分(公開情報/社内情報/機密情報/個人情報)

社外公開

記入すること

出力を社外に出すか

AIの自動操作

記入すること

AIが自動で送信・更新などの操作をするか

リスク区分

記入すること

低・中・高。まだ判定していなければ「要判定」

承認状況

記入すること

承認済み/未承認

更新日

記入すること

この行を最後に確かめた日

記入例

製品・サービス(一般名)

利用部門

契約形態

扱うデータ区分

社外公開/自動操作

リスク区分/承認状況

チャットAI(法人プラン)

利用部門

全社

契約形態

法人契約

扱うデータ区分

社内情報

社外公開/自動操作

なし/なし

リスク区分/承認状況

低/承認済み

議事録AI

利用部門

営業部

契約形態

部門の個別契約

扱うデータ区分

社内情報、個人情報(会議の発言者)

社外公開/自動操作

なし/なし

リスク区分/承認状況

中/未承認

翻訳AI(無償版)

利用部門

海外事業部

契約形態

無償版・個人アカウント

扱うデータ区分

確認中

社外公開/自動操作

あり(取引先への文面)/なし

リスク区分/承認状況

要判定/未承認

既存SaaSに内蔵されたAI機能(要約)

利用部門

カスタマーサポート

契約形態

既存契約のオプション

扱うデータ区分

個人情報(問い合わせ履歴)

社外公開/自動操作

なし/確認中

リスク区分/承認状況

要判定/未承認

既存のSaaSのAI機能の管理の範囲

業務で使っているSaaSの多くは、更新のたびにAI機能を加えています。そのすべてを機能の単位で追い続けるのは、兼務の事務局が数名という体制では現実的ではありません。AnchorXは、機能を追うのではなく、SaaSが扱う情報で3つに分けて、管理の重さを変えることをすすめます。

区分

対象の例

AIインベントリへの登録と確認

機密情報・個人情報を扱うSaaS

対象の例

顧客管理、人事、会計、問い合わせ管理

AIインベントリへの登録と確認

AI機能を1つずつ1行で登録し、有効にする前に事務局が確かめる。管理画面で初期設定を無効にできるものは無効にしておく

社内情報を扱うSaaS

対象の例

グループウェア、文書管理、会議ツール

AIインベントリへの登録と確認

SaaSの単位で1行を登録し、AI機能の有無と、入力の学習への利用の条件を、年1回と契約の更新時に確かめる

公開情報や個人の作業にとどまるSaaS

対象の例

デザインツールなど、扱う情報が限られるもの

AIインベントリへの登録と確認

登録せず、利用ルール(入力してよい情報の区分)で扱う

この3区分は、既存のSaaSに追加されたAI機能の扱いです。チャットAI、翻訳AI、AI機能を持つブラウザの拡張機能のように、AIを使うこと自体を目的にしたツールは、無償版を含めて必ず1行を登録します。ブラウザの拡張機能には、閲覧中のページ(社内システムの画面を含む)を読み取るものもあります。

新しいAI機能を知るきっかけは、提供元からの機能追加の案内や、利用規約・データの取り扱いに関する条項の変更の通知です。通知の受け手に事務局を加えておき、契約の更新時に確かめる項目に「AI機能の有無と、入力の扱い」を足します。目的は、すべての機能を把握することではなく、機密情報と個人情報が流れる経路を押さえることです。

進め方

最初の登録は、部門への申告の呼びかけと、契約中のサービスの確認を組み合わせて集めます。既存のSaaSは、上の3区分に沿って、AI機能のオプションが有効になっているか、その機能がどのデータを扱うかを確かめて登録します。

最初の1か月で「未承認」「要判定」の行が多く出るのは正常です。 棚卸しの目的は、見つけることそのものです。見つかった利用を理由に罰則を科すと、次の申告が来なくなり、一覧は実態から離れます。

登録した後は、登録数、未承認と要判定の件数、契約の更新が近いものを、たとえば月次のAI案件レビューで確かめ、一覧を最新に保ちます。

Download

AIインベントリのシート(Excel)と、社内ガイドラインのひな形(Word)

Excelの「AIガバナンス 運用シート」には、AIインベントリのシートがあります。この節の項目と記入例、未承認・要判定の件数の集計が入っており、そのまま棚卸しに使えます。あわせて、相談しても不利益を受けないことや報告の窓口を書き込める「生成AIの社内ガイドライン ひな形」(Word)も無料で配布しています。

資料をダウンロード

06

After Finding

見つけた後の扱い

棚卸しで見つけた利用は、リスク区分(低・中・高)で扱いを分けます。区分は、評価の軸と、個人情報や重要な判断などの重大な条件に当たるかで決めます。決め方の全体はAIガバナンスとはで解説しています。

リスク区分

扱い

低

扱い

AIインベントリへの登録と、利用ルールの順守だけで承認する

中

扱い

AI事務局が確認し、法務・情報セキュリティなどの専門部門が審査したうえで承認する

高

扱い

区分に応じた承認に加えて、人が確認する箇所と、問題が起きたときの止め方を事前に設計する

高リスクは禁止ではありません。承認と監視を増やして使う区分です。違法な利用などの「許容しない」領域は、リスク区分とは別に対象外として扱います。

無償版の扱い

無償版や個人アカウントでの利用が見つかった場合は、「利用停止」か「法人契約への切り替え」かを判断します。業務で使う理由がはっきりしていて、扱う情報に見合う条件の法人向けの契約があるなら、切り替えのほうが03の構造①を解消できます。利用停止を選ぶ場合も、代わりに使える会社の環境か、別の手段を示します。

低リスクを軽く通す理由

低リスクの利用まで重い審査にかけると、「申請が重く、待てない」という構造(03の②)がそのまま残り、次のシャドーAIが生まれます。低リスクの利用を登録だけで軽く通すことが、申告を増やし、審査の手間を中・高リスクに集中させることにつながります。

07

Data Protection

情報漏洩を防ぐ入力の区分

情報漏洩への備えの中心は、入力してよい情報の区分と、会社が契約した環境への移行です。

入力する情報は、公開情報/社内情報/機密情報/個人情報(要配慮個人情報を含む)に分け、法人向けに契約した環境と、個人向けの無償版のそれぞれで、入力してよいかを決めます。区分ごとの可否の表は、生成AIの社内ガイドラインの作り方で解説しています。

外部のAIサービスで確かめる観点

チャットAIなどの外部のサービスを使うときは、製品の名前ではなく、契約と設定で次の点を確かめます。仕様はサービスや契約の種類ごとに違い、変更もされるため、採用のときと契約の更新のときに確かめ直します。

観点

確かめること

学習への利用

確かめること

入力した内容が、提供元のAIの学習に使われる条件。既定の設定と、利用者や管理者が変えられるか

保存

確かめること

入力と出力が保存される期間と場所

共有の設定

確かめること

会話や生成物を、リンクなどで第三者が見られる状態にできるか。管理者が制限できるか

契約終了時の削除

確かめること

契約を終えたときに、保存されたデータが削除されるか

同じサービスでも無償版と法人向けの契約で条件が異なる場合があり、切り替えを判断する材料になります。

技術的な手段の位置づけ

通信やSaaSの利用状況から、AIの利用を検知・監視する製品もあります。こうした手段は、AIインベントリへの登録の漏れを見つける補助として使えます。ただし、検知しただけでは、見つけた利用をどう扱うかは決まりません。検知を使う場合も、06の扱いを先に決めておきます。

08

Summary

まとめ

シャドーAIとは、会社が把握しないまま業務で使われているAIです。個人アカウントだけでなく、既存のSaaSのAI機能、部門の個別契約、試作も含みます

調査では「利用状況を十分把握できておらず、シャドーAIが発生している可能性がある」が20.6%でした(ISOプロ、単純集計)。課題は、発生の前に把握する仕組みがないことです

シャドーAIは、会社の環境・申請の重さ・範囲の分かりにくさ・SaaSの機能追加から生まれる、仕組みの問題です

一律の禁止は利用を見えなくします。会社の環境への移行を促し、相談しても不利益を受けないことを明記します

AIインベントリで製品・サービス単位に棚卸しします。最初の1か月で未承認・要判定が出るのは正常で、罰則ではなく登録を促します

見つけた利用はリスク区分で扱いを分け、低リスクは軽く通します。情報漏洩には、入力の区分と、学習・保存・共有・削除の確認で備えます

会社として決めることの全体像はAIガバナンスとはで、入力の区分を含む社内ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で解説しています。

Service

ガバナンスを含む6つの領域で、AIの浸透・定着を支援する

AI浸透・定着支援は、方針・対象設定/推進体制・主体/業務活用・効果検証/利用基盤/ガバナンス/効果測定・改善の6つの実施領域で支援します。組織・制度の面では、評価・ルール・会議体を社内の仕組みに組み込むところまでを扱います。

AI浸透・定着支援のページへ

導入

活用

浸透

定着

Download

生成AIの社内ガイドライン ひな形/AIガバナンス 運用シート

社内ガイドラインのひな形(Word)と、方針・許容リスク/AIインベントリ/リスク判定/利用ルールを記録する運用シート(Excel)を無料で配布しています。自社に合わせて書き換えて使えます。

資料をダウンロード