AI Adoption Guide
統括責任者・事務局・推進役の役割と評価
生成AIの推進体制は、統括責任者・事務局・推進役の3つの役割で考えます。 詳しい人に推進を任せるだけでは、担当者の異動や多忙で取り組みが止まります。
本稿では、3つの役割、フェーズごとの体制、推進役の置き方、中堅企業での読み替え、評価と表彰への接続、横のつながりの場の順に述べます。
最終更新:2026年9月22日
01
Roles
推進体制は、次の3つの役割で組み立てます。人数や部署の名前は会社によって違いますが、3つの役割のどれかが空いていないかを最初に確かめます。
役割
担うこと
置く場所の例
統括責任者
担うこと
方針と資源配分を決める。対象業務の優先順位、予算、推進役の稼働を認める
置く場所の例
担当役員、事業部門の責任者
事務局
担うこと
ルール・利用基盤・効果測定・事例共有の場を運営し、推進役を支える
置く場所の例
DX推進部門、情報システム部門、経営企画部門
推進役
担うこと
各部門で使い方を見つけて検証し、部門に広げる。現場の身近な相談先になる
置く場所の例
各部門の担当者(兼務)
各社は、これらの役割を独自の名前で呼んでいます。部門横断の推進の中核をCoE(Center of Excellence)と呼ぶ場合は、主に事務局の役割にあたります。アンバサダー、エバンジェリスト、推進者と呼ぶ場合は、主に推進役にあたります。名前よりも、3つの役割がそれぞれ誰に割り当てられているかが重要です。
公開事例では、KDDIのData & AI Centerが部門横断の推進の中核を担っています。リコージャパンはAIエバンジェリストを認定し、LINEヤフーは各部署に生成AI活用推進者を置いています。
PwCの調査(2026年春)では、成果が期待を大きく上回っている日本企業の39%が社長直轄で推進していたのに対し、期待未満にとどまる企業では9%でした。推進の主体を国の間で比べた場合には、有意な差は見られていません。差は国の間よりも、同じ日本企業の中で大きく出ています。
この結果は推進の主体と成果の関係に見られる傾向で、社長直轄にすれば成果が出ることを示すものではありません。ただ、方針と資源配分を決める統括責任者の役割が、成果と無関係ではないことを示しています。
出典:PwC『生成AIに関する実態調査2026 春 6カ国比較』(調査期間2026年2月12〜19日、売上高500億円以上の企業の課長職以上、日本932名)
02
By Phase
必要な体制は、フェーズによって変わります。最初から完成した体制を作るのではなく、フェーズに合わせて役割を足していきます。
フェーズ
体制でそろえること
導入
統括責任者・事務局・先行部門の推進役を指名し、役割と権限を決める。基本の教育を行う
活用
推進役が対象部門の業務課題の発掘と検証を主導し、統括責任者が続けるかどうかを判断する
浸透
推進役の役割と育成の方法を制度にし、事例の共有を通じて各部門が自律的に運用する
定着
引継ぎと育成、評価と表彰、体制の見直しを定常の業務にする
4つのフェーズの全体像と移行の判断は、生成AIの社内浸透・定着で解説しています。
03
Champions
推進役は、「詳しい人」ではなく「会社が認めた役割」として置きます。詳しい人の善意に頼る形では、本人の業務が忙しくなった時点で推進が止まります。
人数:各部門に1名を目安にします。公募と推薦を併用し、役職は問いません
責任:推進の活動を業務として扱い、何に責任を持つかを本人と上長の間で合意しておきます
役割:部門の業務課題を見つけて検証し、使い方を部門に広げます。部門の身近な相談先にもなります
更新:認定を更新するときに、活動の実績を確かめます。新しい使い方だけでなく、既存業務の改善、他の人への支援、標準手順の更新も実績に含めます
人数は、AnchorXによる設計例です。自社の規模と業務に合わせて調整します。
着手の直後に必要なのは、対象部門の担い手を指名することです。認定制度として確立するのは、その後で構いません。事例が流通し始める前に要件と更新の仕組みだけを整えると、肩書きだけの制度になります。
公開事例では、リコージャパンが知識・技能・成果の3つの要件でAIエバンジェリストを認定する制度を設け、自薦した1,387人(従業員の約8%)を候補者として、2025年度に300人の認定を目標にしています(2024年の公表時点の計画)。
推進する人の不足は、調査でも上位に挙がる課題です。商工中金の中小企業向けの調査では「導入を推進する人材がいない」が32.0%、帝国データバンクの調査では「専門人材・ノウハウ不足」が41.3%でした。
04
Mid-sized Companies
従業員が数百名規模の企業では、各部門に1名ずつ推進役を置き、制度として運用するのは負担が大きい場合があります。その場合は、次のように読み替えます。
推進役は兼務の1〜2名に絞る:各部門1名の制度化にこだわらず、まず対象部門の担い手を決めます
足りない知見と工数は外部で補う前提で設計する:技術の動向、効果の測り方、業務の再設計の進め方など、社内に蓄積のない部分を補います
外部を常設の役割にしない:推進の責任と判断は社内に置き、外部の支援は社内の担い手が育つまでの期間に限ります
場は既存の定例に相乗りする:独立した会議を新しく設けるより、既存の定例会議に15分だけ相乗りするほうが続きます
外部に推進を任せきりにすると、支援が終わった時点で運用が止まります。外部を使う場合も、社内の誰が何を引き継ぐかを最初に決めておきます。
公開事例では、ベネッセホールディングスがサイバーエージェントと共同で「AIクリエイティブセンター」を設立し、制作のノウハウをデータベースにして蓄積する仕組みを作っています。外部の知見を使いながら、ノウハウを蓄積していく形です。
05
Evaluation
AIの活用が評価や処遇にまったく反映されない状態では、業務の中での優先順位が上がりません。活用の度合いを、評価と表彰の対象に含めます。
ただし、何をもって「活用の度合い」とするかには論点が残ります。利用率で測れば形だけの利用を招き、業務の再設計の件数だけで測れば、変更の数と実際の成果が一致しない場合があります。自社で無理なく測れる範囲に合わせて設計します。
減点には使わない:使っていないことを罰する運用は、「使ったら自分の仕事や評価はどうなるのか」という不安を裏づけてしまいます
管理職の目標から始める:担当部門の業務の再設計を管理職の目標に置くほうが、一般の社員の評価を変えるより速く、副作用も小さくなります
制度の改定を待たない:認定、表彰、社内のアワードは、人事制度を変えずに今期から始められます
公開事例では、サイバーエージェントが各部署のAI活用のレベルを格付けする「AI番付」を半年ごとに行い、殊勲賞(経営インパクトへの貢献)、敢闘賞(文化醸成への貢献)、技能賞(独創的なプロンプト・エージェント設計)の3賞を設けています。経営への貢献などの成果を、評価の軸に含めた例です。LINEヤフーは、全部署に生成AI活用推進者を置いており、社内表彰や社員アンバサダー制度などで活用をさらに促す予定を示しています(2025年7月の発表時点)。
06
Community
推進役が部門ごとに孤立すると、使える人と使えない人の差が、部門の間でも広がります。部門を横断して事例を流通させる場を設けます。
頻度:隔週または月1回の定例にします
中身:現場の担当者が事例を話す時間を最も長く取り、事務局が話す時間は回を追うごとに減らします
失敗事例:毎回1つは、うまくいかなかった事例を扱います。うまくいかなかったと言える場でなければ、本当の課題は上がってきません
目的:参加しやすさを重視し、必要な教育や業務上の会議とは目的を分けます
公開事例では、リクルートが隔週1時間の社内コミュニティ「AI Update」を運営し、参加の表明が1,500人を超えています。人数が少ないうちは、場の頻度より、毎回誰かが事例を話すことを優先します。
07
Summary
推進体制は、統括責任者・事務局・推進役の3つの役割で考えます
CoE・アンバサダー・エバンジェリストは各社の呼び方です。名前より、3つの役割が誰に割り当てられているかを確かめます
体制は、フェーズに合わせて役割を足していきます
推進役は会社が認めた役割として置き、何に責任を持つかを本人と上長の間で合意します。着手の直後は指名から始めます
中堅企業では推進役を兼務の1〜2名に絞り、外部は常設の役割にしません
活用の度合いは評価と表彰につなげますが、減点には使わず、管理職の目標から始めます
横のつながりの場では、現場の事例と、うまくいかなかった事例を扱います
4つのフェーズと10の打ち手の全体像は生成AIの社内浸透・定着で、各社の取り組みは生成AIの社内浸透事例で解説しています。
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4つのフェーズと6つの領域から、いまどのフェーズにいて、次に何をそろえるかを整理します。AI浸透・定着支援のページ(ai.anchorx.co.jp)が別タブで開きます。
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