AI Adoption Guide

生成AIの社内浸透事例

各社は何をして、どこまで進んだか

公開されている事例に共通するのは、ツールの導入だけでなく、業務の手順と推進の体制を見直している点です。

本稿では、国内外13社の公開情報を、10の打ち手(経営/組織・制度/ソリューション)と、到達実績・途中経過・将来目標に分けた期間で整理します。情報の基準日は2026年8月24日です。

最終更新:2026年9月22日

01

How to Read

事例の読み方

公開情報の取り扱い

本稿の企業事例と数値は、各社の公式発表、公開資料、取材・報道記事などの公開情報をもとに、AnchorXが要約・再構成したものです。原文の長い転載や、各社サイトの図表・写真の転載は行っていません。

数値は各参照元の公表値で、AnchorXが独自に検証したものではありません。フェーズへの当てはめと示唆は公開情報を踏まえた独自の整理で、各社による本稿やAnchorXのサービスへの推奨・承認・関与を示すものではありません。各社名・製品名などの権利は、各権利者に帰属します。

各社が公表している期間と到達点は、全社への配布、利用率、個別業務の成果、制度の整備など、それぞれ違います。そこで本稿では、確かめられる情報を次の3つに分けて読みます。

区分

意味

到達実績

公表の時点で、達成が確かめられる数値や状態

途中経過

取り組みの規模や成果の一部は確かめられるが、全社での定着の完了は確かめられないもの

将来目標

各社が掲げる目標で、到達はまだ確かめられないもの

フェーズへの当てはめは、公開情報をもとにしたAnchorXの独自の整理です。各社が本稿と同じフェーズの定義を使っているわけではありません。

02

13 Companies

13社の一覧

13社の主な打ち手と、公開情報で確かめられる期間・到達点は次のとおりです。打ち手の番号は、10の打ち手の番号です。

企業

主な打ち手

公開情報で確かめられる期間と到達点

フェーズへの当てはめ(区分)

パナソニック コネクト

主な打ち手

③⑥⑩

公開情報で確かめられる期間と到達点

2023年2月に開始。約1年後に年間18.6万時間、約3年後に年間78.8万時間(総労働時間の3.4%)を削減

フェーズへの当てはめ(区分)

1年で活用、3年で浸透から定着への移行(到達実績)

SMBCグループ

主な打ち手

公開情報で確かめられる期間と到達点

2017年にAI導入ガイドラインを制定。2023年7月に生成AIアシスタントを全行・グループへ展開し、稼働3年弱で1日7〜8万回

フェーズへの当てはめ(区分)

導入を完了し、活用から浸透を継続(途中経過)

日立製作所 北海道支社

主な打ち手

①②⑥

公開情報で確かめられる期間と到達点

約1年で支社の生成AI業務活用率100%。5つのユースケースで業務ごとの効果を確認

フェーズへの当てはめ(区分)

活用を完了し、限定した範囲で浸透(到達実績。一支社での到達)

リクルート

主な打ち手

⑧⑨

公開情報で確かめられる期間と到達点

2022年以降に個人・部門で試行。2024年11月に社内コミュニティを開始し、2025年3月までに参加表明1,500人超

フェーズへの当てはめ(区分)

約2年以上で、活用から組織的な浸透へ(途中経過)

コロプラ

主な打ち手

①③⑧⑨⑩

公開情報で確かめられる期間と到達点

2022年頃から推進。2025年9月に回答者の92%、2026年6月に全社員の約98%が業務で利用

フェーズへの当てはめ(区分)

約3〜4年で浸透、定着と業務の再設計へ移行(到達実績)

LINEヤフー

主な打ち手

③⑦⑩

公開情報で確かめられる期間と到達点

2023年に推進組織を立ち上げ。2025年7月に、全社でAIの利用を前提とする働き方を開始

フェーズへの当てはめ(区分)

約2年で活用から浸透へ移行(途中経過。生産性2倍は2025年からの3年間の目標)

DeNA

主な打ち手

①⑧⑩

公開情報で確かめられる期間と到達点

2025年2月に「AIオールイン」を宣言。約6か月で推進会社、企画の承認ルール、スキルの可視化、100事例の共有を整備

フェーズへの当てはめ(区分)

6か月前後で活用から浸透に着手(途中経過)

サイバーエージェント

主な打ち手

①⑦

公開情報で確かめられる期間と到達点

2023年10月に全社の育成を開始。2025年10月に組織別の評価(AI番付)を始め、2026年4月に第1回を発表。2028年に全社の開発プロセスの自動化を目標

フェーズへの当てはめ(区分)

1〜2年で活用から浸透、業務の再設計は複数年(途中経過と将来目標)

リコージャパン

主な打ち手

④⑦

公開情報で確かめられる期間と到達点

2024年11月にAIエバンジェリストの育成を開始。1,387人を候補とし、2025年度に300人の認定を目標

フェーズへの当てはめ(区分)

活用から浸透に向けた推進人材の基盤(将来目標を含む)

旭化成

主な打ち手

公開情報で確かめられる期間と到達点

2023年5月にグループで導入を開始し、同年12月に開発者向けの基盤を公開。月2,157時間の削減などを公表

フェーズへの当てはめ(区分)

導入から活用へ移行(途中経過)

KDDI

主な打ち手

②④

公開情報で確かめられる期間と到達点

2023年から全社の枠組みを整備。法務部門の契約審査をパイロットに選び、現場主導のアプリ作成を確認

フェーズへの当てはめ(区分)

限定した部門での活用(途中経過)

Microsoft(自社展開)

主な打ち手

②⑤

公開情報で確かめられる期間と到達点

2023年5月に2,000人で開始し、2024年2月に全社への展開を完了(30万人超)

フェーズへの当てはめ(区分)

約9か月で導入、活用と浸透は継続(到達実績)

ベネッセHD×サイバーエージェント

主な打ち手

外部との協業

公開情報で確かめられる期間と到達点

共同で「AIクリエイティブセンター」を設立し、専用のAIの導入と制作ノウハウのデータベース化を開始

フェーズへの当てはめ(区分)

限定した領域での活用を進行中(途中経過)

フェーズの定義は4つのフェーズと移行の判断で、標準的な期間の目安は着手の順序と期間の目安で解説しています。

03

Management

経営の打ち手の事例

経営の打ち手(①経営トップの発信、②対象を絞った開始、③削減した時間の使い道)が表れている事例です。

日立製作所 北海道支社:支社長のビジョンと、5つのユースケース

新任の支社長がビジョンを設定し、日立のGenAIアンバサダーをプロジェクトリーダーに迎えました。トップダウンのビジョンと、現場からのユースケースの発掘を組み合わせ、全社のMicrosoft 365 Copilot活用コンテストに参加して、支社内で5つのユースケースを選んでいます。

結果として、契約書の作成・交渉支援が半日〜1日から約10分に、入札情報の収集が約33.3時間から約1時間になり、約1年で支社の生成AI業務活用率100%に到達しました。浸透の単位が全社でなくても成り立つことを示す事例です。(打ち手①②⑥)

DeNA:宣言を、承認ルールの変更につなげる

2025年2月に経営トップが「AIオールイン」を宣言し、同年4月に推進の受け皿となる子会社を設立しました。7月には企画の承認ルールを変え、生成AIを使ったプロトタイプがない企画は承認しない運用にしています。8月末には社員のAI活用スキルを可視化する指標(DeNA AI Readiness Score)を導入し、現場の活用事例を毎日1件発信する「AI活用100本ノック」も行いました。

経営の方針を、承認ルールと事例の共有という具体的な仕組みにつなげた例です。なお、スキルの指標は社員の能力を測るもので、業務の時間・品質・事業の効果とは分けて評価します。(打ち手①⑧⑩)

パナソニック コネクト:効果の計測と、削減した時間の使い道

2023年2月に社内の生成AIを国内の全社員に展開しました。2025年度(導入から約3年)には、年間78.8万時間(総労働時間の3.4%相当)の削減、月間利用率61%、1回あたり33分の削減を公表しています。削減した時間を顧客への提案や新しいソリューションの創出に振り向ける方針を示し、2030年に総労働時間の10%を削減する目標を掲げています。

効果を細かく計測して公表している点と、時間の使い道を経営が示している点が特徴です。質問に答える使い方から、業務を実行する使い方へ段階的に広げる方針も掲げています。(打ち手③⑥⑩)

04

Organization

組織・制度の打ち手の事例

組織・制度の打ち手(④推進役、⑤使ってよい範囲、⑥業務単位の測定、⑦評価と表彰)が表れている事例です。

リコージャパン:AIエバンジェリストの認定制度

職務や役職を問わず自薦を募り、知識(G検定の取得や社内の学習コンテンツの受講)、技能(AIセミナーの講師の経験)、成果(AIソリューションの販売、または社内の業務改善の提案の実績)の3つの要件で認定する制度です。自薦した1,387人(従業員の約8%)を候補者として育成を始め、2025年度に300人の認定を目標にしています。

「詳しい人」を「認定された役割」に変えた例です。従業員の約8%が自ら手を挙げています。(打ち手④⑦)

SMBCグループ:ガイドラインの土台と、利用の低下への対処

2017年にAI導入ガイドラインを制定し、2023年に生成AI向けへ刷新しました。自社開発の生成AIアシスタントを2023年7月から全行・グループへ展開し、稼働3年弱で1日あたり7〜8万回の利用を記録しています。一方で、社長モデルの対話AIについては、時間とともに利用の頻度が下がる傾向を公表し、プッシュ通知などの継続的な働きかけで対処しています。(打ち手⑤)

サイバーエージェント:AI番付と3つの賞

各部署のAI活用のレベルを相撲の番付になぞらえて格付けする「AI番付」を導入しました。全社版(9項目・76組織)とエンジニア版(14項目・44開発組織)の2つの軸で、半年ごとに評価しています。あわせて、殊勲賞(経営インパクトへの貢献)、敢闘賞(文化醸成への貢献)、技能賞(独創的なプロンプト・エージェント設計)の3賞を設けました。

経営への貢献などの成果を、評価の軸に含めた例です。(打ち手①⑦)

KDDI:定型業務の多い部門をパイロットに

2023年から、部門横断の推進の中核であるData & AI Centerが全社の枠組みを整えています。契約審査という定型業務の多い法務部門をパイロットに選び、エンジニアではない人から習熟したエンジニアまで、スキルの違う層で検証しました。短い説明の後、法務部門のスタッフが約10分でアプリを作成した事例が紹介されています。(打ち手②④)

旭化成:効果の具体値と、開発者向けの基盤

2023年5月にグループで生成AIの導入を始め、同年12月には社内のシステム開発者向けに、生成AIを構築・運用する基盤を公開しました。汎用の用途で業務全体の月2,157時間、書類監査用の生成AIで年1,820時間の削減を公表しています。材料の新しい用途の探索にも使い、文献データから6,000以上の用途の候補を考案しています。(打ち手⑥)

05

Solutions

ソリューションの打ち手の事例

ソリューションの打ち手(⑧横のつながりの場、⑨業務の中の入口、⑩業務の作り替え)が表れている事例です。

LINEヤフー:業務ルールそのものを書き換える

全従業員約11,000人に生成AIのツールを展開したうえで、生成AIの活用を業務の原則とする新しい働き方を始めました。調査・検索ではまずAIを使い、資料作成もAIの利用を前提とする運用に変え、任意参加の会議への出席の考え方も見直しています。全従業員に必須の研修と試験を行い、各部署に推進者を置いています。

目標は、今後3年間で業務の生産性を2倍にすることです。ツールを配ることの対極にある事例で、打ち手⑩の例です。(打ち手③⑦⑩)

リクルート:社内コミュニティと、業務ごとの入口

2022年以降、社員が個人の業務で生成AIを試して成果を得ていましたが、その知見が組織に共有されていないことが課題でした。2024年11月に隔週1時間の社内コミュニティ「AI Update」を立ち上げ、活用事例やプロンプトを共有し、業務の棚卸しやプロンプトの設計を実践で指導しています。タスクやプロンプトを生成するツールを内製し、部門別のプロンプトライブラリーも整えました。参加の表明は1,500人を超えています。(打ち手⑧⑨)

コロプラ:高い利用率の後に、仕事の再設計へ

2022年頃から推進し、マネージャー以上が率先して利用しました。職種ごとの活用事例の共有や勉強会を行い、マーケティング戦略部では週1回の「もくもく会」で実際に触る時間を設けています。2026年6月時点の全社員のAI活用率は約98%で、その後は個人の効率化から、組織の仕組みや顧客体験の再設計へ重心を移しています。

利用率そのものより、管理職の率先、事例の共有、触る機会、業務への組み込みを段階的に重ねた点が参考になります。(打ち手①③⑧⑨⑩)

Microsoft:自社展開の方法論を公開

Microsoft 365 Copilotを自社に展開した方法論を、5章立てで公開しています。ガバナンスを先に固めつつ価値の実現までの速さと両立させること、製品エンジニア、営業・マーケティング、サポート・人事・法務などの部門、全社の4段階で広げること、推進者(チャンピオン)が時短の事例を共有することなどが含まれます。2023年5月に営業職の2,000人で始め、2024年2月に全社への展開を完了しました(社員と取引先で30万人超)。(打ち手②⑤)

ベネッセホールディングス×サイバーエージェント:外部の知見を取り入れる

サイバーエージェントと共同で、クリエイティブ制作の拠点「AIクリエイティブセンター」を設立しました。ベネッセ専用にカスタマイズしたAIを導入し、制作のノウハウをデータベースにして蓄積する仕組みを作っています。(外部パートナーの活用)

06

Revision

方針を見直した事例

Klarna(スウェーデンのフィンテック企業)は、AIのチャットボットで従業員約700人相当の業務を代替すると発表し、カスタマーサービスの自動化を大きく進めました。その後、2025年の報道では、顧客が人と話せる選択肢を確保する方針や、人によるサポートの採用が紹介されています。

AIの活用を評価するときは、対応の工数や費用に加えて、顧客体験と例外への対応の品質を確かめます。人が対応する条件と、運用の後に体制を見直す手順を、あらかじめ設計しておくことが重要です。

07

Common Points

事例の共通点

各社に共通するのは、業務への組み込み、推進体制、効果測定の組み合わせです

ツールの配布で終わらず、業務ルールや承認ルールなどの仕組みを変えています(LINEヤフー、DeNA)

推進役を、会社が認めた役割にしています(リコージャパン、LINEヤフー)

効果を業務単位で計測し、公表しています(パナソニック コネクト、日立製作所 北海道支社、旭化成)

浸透の単位は、全社である必要はありません(日立製作所 北海道支社)

利用率を到達点にせず、その先の業務の再設計に進んでいます(コロプラ)

10の打ち手の全体像は生成AIの社内浸透・定着で、推進体制の組み方はAI推進体制をどうつくるかで解説しています。

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生成AIを社内に浸透させる実践例(全文)

本稿の元資料です。13社の状況・実施したこと・結果と、目指したい5つの状態、6つの課題、10の打ち手、着手の順序をまとめています。PDFで無料配布しています。

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4つのフェーズと6つの領域から、いまどのフェーズにいて、次に何をそろえるかを整理します。AI浸透・定着支援のページ(ai.anchorx.co.jp)が別タブで開きます。

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