AI PoC Guide

PoC計画書・企画書に何を書くか

13項目の構成例つき

PoC計画書・企画書は、PoCが終わったときに何を判断するかを最初に書く書類です。実施する作業の一覧よりも先に、判断の中身が書かれている必要があります。

本記事では、その構成を13項目に整理し、問い合わせ対応AIを題材とした記入例とあわせて解説します。

最終更新:2026年9月21日

01

Two Documents

企画書と実施計画書の区分

呼称は組織によって異なりますが、役割で分けると次の2種類になります。

PoC企画書(提案書):PoCを開始してよいかを判断するための書類。何のために、何を確かめ、どうなったら次に進むのかを示す

PoC実施計画書:PoCを具体的にどう進めるかを定める書類。期間、体制、評価方法、スケジュールなどを示す

実務では、この2つを1冊にまとめる運用も一般的です。本記事の13項目は両方の役割をカバーする構成で、1〜11が「開始してよいか」の判断材料、12・13が「どう進め、どう判断するか」の計画にあたります。

02

13 Items

PoC企画書の構成例(13項目)

項目

書く内容

1

項目

背景と判断目的

書く内容

何を解決したいのか。PoC終了時に何を判断するのか

2

項目

現在の業務

書く内容

業務の流れ、滞っている所、現在の数値

3

項目

目指す業務

書く内容

AIと人の役割分担をした後の業務の姿

4

項目

業務効果の設計

書く内容

サービスの受け手、3つのKPI、現在値、目標値

5

項目

ロードマップ

書く内容

PoC・限定実運用・本番それぞれの目的、範囲、次に進む条件

6

項目

代表的な利用場面

書く内容

利用者、入力、AIの処理、出力、人の確認

7

項目

品質・精度

書く内容

機能、使うデータ、評価データ、求める品質と速度の条件

8

項目

評価方法

書く内容

誤りの重大度、評価件数、未使用データ、業務部門や独立した立場の確認

9

項目

経済性

書く内容

総費用の幅、効果の金額換算、投資回収の考え方

10

項目

リスク

書く内容

リスク区分、人による確認、監視、緊急停止、役割分担、許容の判断者

11

項目

運用可能性

書く内容

業務の変更点、教育、運用体制、利用状況の指標

12

項目

実施計画

書く内容

活動、成果物、責任者、会議体

13

項目

意思決定計画

書く内容

判定する人、判定日、判定4区分それぞれの条件

一般的なPoC計画書との相違点は、1の「判断目的」と13の「意思決定計画」が最初と最後で対になっていることです。この2項目があることで、計画書は作業一覧ではなく判断のための設計図になります。

ベンダー提案書やPoC計画書のレビューでは、13項目のうち13の意思決定計画と8の評価方法の欠落が最も高い頻度で観察されます。いずれも「終了後にどう判断するか」に関わる項目であり、ここが空白のまま承認された計画書も複数の案件で確認されています。

以下、項目ごとの書き方を、問い合わせ対応AIを例に解説します。数値は架空のものですが、実際の計画書と同じ粒度で記載しています。

03

How to Write

各項目の書き方と記入例

1

背景と判断目的

記載するのは「PoCで何をするか」ではなく、「PoCが終わったときに何を判断するか」です。

記入例

問い合わせ件数が前年比1.4倍に増え、メールチャネルの平均初回応答時間が4.2時間から9.6時間へ延びている。本PoCでは、回答案を作成するAIが有人対応の品質を保ったまま処理時間を短縮できるかを確かめ、終了時に「メールチャネルで限定実運用に進むか」を判断する。

2

現在の業務

業務の流れと、時間を要している工程を、可能な限り数値で記載します。効果を比較する際の基準になるためです。

記入例

メール問い合わせは月間1,200件。受付→分類→担当者が回答作成→上長確認→送信。1件あたり平均18分、うち回答作成が11分(61%)を占める。担当6名、うち経験1年未満が2名で、この2名は1件あたり26分かかっている。

3

目指す業務

AI導入後、人とAIがそれぞれ何を担当するのかを記載します。「AIが自動で回答する」のか「AIが回答案を作り、人が確認して送る」のかで、評価の方法もリスクも大きく変わります。

記入例

AIが過去の対応履歴とFAQから回答案を生成し、担当者が確認・修正して送信する。AIは送信しない。分類と上長確認の工程は現行のまま残す。

4

業務効果の設計

効果は「誰にとっての成果か」で3つに分けて記載します。業務にとっての成果を示す事業KPI、利用者・顧客にとっての成果を示すサービスKPI、会社にとっての成果を示す経営KPIです。自社の効率化だけでなく、受け取る側の体験が悪化していないかを確認するサービスKPIを必ず含めます。

記入例

事業KPI:1件あたり処理時間 18分 → 15分以下/回答案の採用率 60%以上

サービスKPI:初回解決率 72% → 77%以上/顧客満足度 4.1 → 4.1以上(低下させない)

経営KPI:メールチャネルの月間総対応コスト 約290万円 → 10%以上削減

顧客満足度のように事後に「導入前の値」を取得できない指標は、この時点で測定を開始する計画もあわせて記載します(上の例では、PoC開始2週間前から回答後アンケートの配信を開始)。

3つのKPIの選び方と歯止めの置き方はPoCの評価項目をどう決めるかで解説しています。

5

ロードマップ

PoCだけでなく、その後の限定実運用(一部の業務・利用者で実際に使用し、効果と運用を確かめる段階)と本番まで、段階ごとに目的・範囲・次に進む条件を記載します。PoCの位置づけが全体の中で明確になります。

6

代表的な利用場面

「誰が、何を入力し、AIが何を出し、人がどう確認するか」を、代表的な場面について1〜3つ記載します。図示すると関係者の認識がそろいやすくなります。

7

品質・精度

使用する技術の候補、データの場所・量・権利、評価に使用するデータ、求める品質と速度を記載します。個人情報や機密情報を含む場合は、その取り扱いもここに記載します。

なお、正解が一つに定まらない出力を扱う場合や、AIが送信・更新・削除などの操作を自動で実行する場合は、ここに追加の条件が生じます。該当する評価項目はPoCの評価項目をどう決めるかの一覧にあります。

8

評価方法

PoC計画書で最も欠落しやすい項目です。記載する内容は次のとおりです。

誤りを重大度別にどう分け、それぞれ何件まで許容するか

評価に何件使用するか

開発・調整に使用していない評価用データを確保しているか

正解を誰が決め、誰が確認するか

「重大な誤り0件」を合格条件にする場合は、何件のうち0件なのかを必ず併記します。件数が少なければ、0件という結果は判断材料になりません。評価データの要件はPoCの評価項目をどう決めるかで解説しています。

9

経済性

総費用は単一の金額ではなく、「基本・上振れ・下振れ」の幅と、それぞれの前提で示します。初期開発費だけでなく、利用料、監視、人による確認、教育、精度の改善、モデルの変更までを含めます。

記入例

月間1,200件・1件あたり平均3,000トークンを前提に、AI利用料は月8万円(上振れ時14万円:1件あたりトークン量が1.7倍になった場合)。加えて運用・改善に月10時間を見込む。

効果の金額換算については、算出した金額が損益のどの科目に届くかまで書けているかが分かれ目になります。「削減時間 × 人件費単価」で出した金額は、その時点では支出として減っていません。 浮いた時間の行き先を特定できた分だけを科目に落とします。

note

役員が何を効果として認め、何を認めないのか、効果額をどう翻訳するかは、noteの記事で解説しています。

AIの費用対効果が経営に通らない理由

投資回収の考え方(従来システムとの差異)

AIの投資回収では、従来のIT投資と同じ考え方で5年の回収計画を引く例が多く見られます。この引き方は、多くの場合に前提が合いません。

従来のシステムは、リリース時点でほぼ完成しています。以降に発生するのは保守費であり、機能を追加しない限り大きな追加投資はありません。そのため、初期投資を5年で回収するという計算が成り立ちます。

AIの場合は前提が異なります。MVPとしてリリースし、使いながら精度を高め、自動化できる範囲を広げていくのが基本の進み方であり、リリース後も相当な投資が継続します。この状態で、導入初期の効果見込みをそのまま5年に引き延ばして回収計画を作成すると、継続する投資が計算に入らないため、実態と乖離します。

計画書に記載する場合の形式は、次の3点です。

初期投資と、リリース後に継続する投資を分けて記載する

効果は「導入時点の効果」と「精度・自動化率が上がった後の効果」を分けて置く

回収期間を1本の数値で記載せず、どの時点で何が達成されていれば回収に向かうかを記載する

回収期間そのものは、3年以上でも承認されることがあります。問題は長さではなく、長い計画ほど途中で前提が崩れても気づけないことです。利用量や単価が想定と変わっても、再計算されないまま進行します。

また、回収期間を示すこと自体が形式化し、後から実績と照らし合わせる担当者が存在しない状態も複数の案件で観察されます。回収の前提には、見直す時期をあらかじめ設定します。「1年後にこの前提が正しかったかを確認する」と計画書に記載しておくだけで、扱いが変わります。

10

リスク

リスクを低・中・高のいずれと仮判定したか、およびその理由を記載します。あわせて、人がどこで確認するか、問題が起きたとき誰が停止するか、役割分担(誰が実行し、誰が承認するか)を記載します。

許容を判断するのが誰かも、ここで決めます。 リスクの議論は、許容する判断者を決めないまま対策の設計から入ると終わりません。あわせて、撤退する場合に何が必要か(業務手順の復旧に要する人日、データの持ち出し形式、改修した既存システムの扱い)も見積もっておきます。

11

運用可能性

PoCの段階では詳細な運用設計は不要ですが、業務がどう変わるか、誰にどのような教育が必要か、利用状況を何で確認するかの初期方針を記載します。本番の運用を誰が担当するかについては、PoC開始前に運用部署の合意を取っておきます。

12

実施計画

活動、成果物、責任者、スケジュール、報告する会議体を記載します。一般的なPoC実施計画書の中心にあたる部分です。

13

意思決定計画

判定する人、判定日、そして判定4区分それぞれの条件を記載します。

記入例

判定者:カスタマーサポート部長 判定日:2026年12月15日

Go:重大な誤り(誤った案内・個人情報の混入)が評価300件中0件、かつ回答案の採用率60%以上、かつ月額利用料の見込みが14万円以内

条件付きGo:採用率は60%以上だが、特定カテゴリ(返品・保証)で重大な誤りが1件以上。カテゴリを対象外にする対応を12月末までに設計し、未達の場合は対象を縮小する

保留・再設計:対象業務の切り方そのものを見直す必要がある場合。再判定日を設定し、その日までに揃わなければNo-Goとする

No-Go:採用率50%未満、または重大な誤りが評価300件中3件以上

この項目が決まっていない場合、PoCの結果を見てから判断基準を検討することになり、判断が長期化する原因になります。判定4区分の使い分けと、保留・再設計を例外扱いとする理由はPoCの評価項目をどう決めるかで解説しています。

04

Sample

検証項目と合格条件の記載例

測定項目の選び方PoCの評価項目をどう決めるかに一覧があります。ここでは、選んだ項目を計画書の形式(項目+合格条件)に落とした例を示します。

観点

検証項目

合格条件の例

業務効果

検証項目

回答案の採用率(修正なし・軽微な修正で送信できた割合)

合格条件の例

60%以上

業務効果

検証項目

AIを適用できた件数の割合

合格条件の例

全件の80%以上(残りは理由を記録)

業務効果

検証項目

回答案を使った場合の1件あたり処理時間

合格条件の例

18分 → 15分以下

業務効果

検証項目

初回解決率

合格条件の例

72% → 77%以上

品質・精度

検証項目

評価データ300件での回答の正確さ(カテゴリ別)

合格条件の例

全カテゴリで85%以上

品質・精度

検証項目

重大な誤り(誤った案内、個人情報の混入)の件数

合格条件の例

評価300件中0件

品質・精度

検証項目

応答にかかる時間

合格条件の例

5秒以内

経済性

検証項目

想定件数(月1,200件)での月額利用料

合格条件の例

14万円以内

経済性

検証項目

稼働後の改善・調整にかかる工数

合格条件の例

月10時間以内

リスク

検証項目

個人情報の入力・保存・学習利用の条件

合格条件の例

社内ルールの範囲内であることを確認

運用可能性

検証項目

担当者が実務で試した場合の使いやすさ・手戻り

合格条件の例

担当6名中4名以上が「使える」と判断し、手戻りの原因が特定されている

※数値は架空の例です。実際の値は案件ごとに設定します。合格条件は、結果が出てから決めるのではなく、この表を埋めた時点で確定させます。

05

Review

提出前に特に確認する5項目

PoC計画書・企画書で記載が漏れやすいのは、次の5点です。

13項目すべてを確かめる確認表(15項目)は、企画書テンプレート(Excel)に収録しています。

1

判断目的が「検証する」で終わっていないか:PoC終了時に何を判断するかが書かれているか

2

サービスKPIが入っているか:自社の効率化だけでなく、受け取る側への影響を見ているか

3

評価件数が書かれているか:合格条件に「何件のうち」が入っているか

4

総費用に、リリース後に継続する投資が入っているか:初期開発費だけになっていないか

5

4区分すべての条件が書かれているか:Go/条件付きGo/保留・再設計/No-Go の4つが揃っているか。Goの条件だけでは足りません

これらは、PoCの企画を第三者の立場で見直す際にも使用できる観点です。PoC全体の流れはAI PoCの進め方で解説しています。

06

Summary

まとめ

PoC計画書は、PoC終了時に何を判断するかを最初に書く書類です

13項目のうち、「判断目的」と「意思決定計画」が対になるように記載します

項目4・7・9・10・11は、評価の5観点 業務効果/品質・精度/経済性/リスク/運用可能性 に対応します

効果は事業・サービス・経営の3つのKPIで記載し、事後に取得できない指標は計画段階で測定を開始します

検証項目には、必ず合格条件と評価件数を付けます

投資回収は、初期投資と、リリース後に継続する投資を分けて記載します。AIは完成品を納めて終わる形式ではありません

意思決定計画には、判定4区分それぞれの条件を書きます。Goの条件だけでは足りません

PoCそのものの基本はAI PoCとは何かで解説しています。個別の疑問への短い回答はAI PoCのよくある質問にまとめています。

Download

PoC企画書テンプレート(Excel・記入例つき)

本記事の13項目を1行ずつ埋める、表形式のExcelです。記入欄の隣に、問い合わせ対応AIを題材にした記入例を並べています。検証項目と合格条件の別表と、提出前の確認表(15項目)も収録しています。社内の企画書のたたき台としてそのまま使えます。

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